水曜日, 8月 17, 2005

水の炎



現在、ニューヨーク、チェルシーのサラ・テキア・ローマ画廊での個展の準備をしています。オープニングは9月15日で、展覧会のタイトルは”Water Flames”「水の炎」。

写真の作品”The Fire and Rose are One”は2003年に制作した「四つのカルテット」のシリーズです。「四つのカルテット」はT.S. エリオット(20世紀イギリスの詩人)の詩に描かれている世界を視覚化したものです。今回の「水の炎」は13世紀のダンテの「神曲」を視覚化した作品ですが、この二つのシリーズには密接な関連があります。

実はエリオットの晩年の詩にはダンテからの引用が多く、時を超えた思想の流れを感じます。「神曲」は主人公が地獄から天国に歩む旅を描いたものですが、そこには、人の力を超えるスピリチュアルな世界と、日常のなまなましい歩みの両面が捉えられています。エリオットは20世紀の戦争の荒地の中、その旅を体験しその暗闇を通して尚も希望を見いだす力を「四つのカルテット」に描いています。

日本画の材料(朱、金など)を使って描く炎は日本の伝統にもつながっていて、平安時代(12世紀)の地獄草子や速水御舟の「炎舞」からもインスピレーションを得ました。今回の「水の炎」は 炎の持つ神秘的なエッセンスを抽象的にとらえようと試みた作品です。

9/11の惨劇を実際に体験した私にとって「グラウンドゼロ」からの表現が一つのアプローチでもあり、広島、長崎の丸木夫妻のイメージもさけることはできません。また、最近あるオペラのコラボレーションに用いた、広島原爆公園の炎のスケッチも作品に反映しています。しかしこれは、光に満ちた炎を描く過程であり、ダンテ、エリオットの歩んだ道にも重なるものです。

「水の炎」は金泥を使った作品のため、特別な「羊羹」(ようかん)色の雲肌麻紙を漉いてもらいました。水をもって描く炎は芸術そのものがパラドックス(逆説的)であることも表しています。 聖カテリーナ(14世紀)は「天国の炎と地獄の炎は同じ」といいました。炎は人類の恐れる力であり、また同時に希望を与える光でもあるのです。